黒皮の手帖






誰もが寝静まっていそうな夜半。空条邸の二階の東側にある、庭に面した巨大な窓が静かに開いた。窓辺に佇む人影は背が天井につきそうなほど高い。
中空にかかる満月はできたての金貨のような眩しさで明るい光を放っている。
人影はしばらく空を見ていた。
三月に入ってから初めての満月だ。風のない空には月を覆うほどでもない小さな雲が点在している。月の輝きは圧倒的でそれらの雲を背後から透かし異様なまでに明るかった。
人影が不意に見えなくなった。窓が閉まる。カーテンが閉ざされる。
それから屋敷の一階で庭側の窓が音もなく開かれた。長い廊下の先にある濡れ縁に人影が現れる。人影は手にした履物を地に置くと室内から庭へと降りて歩き出した。
強い照明を浴びたように月明かりに照らされて、人影が男であることや、容貌が端麗であることが見て取れる。
男は屋敷の住人、空条承太郎だった。
小脇に抱えた荷物を一度だけ持ち直すと、空条はゆっくりと庭の奥へと歩いて行った。鬱蒼と茂った樹木が並ぶ小高い丘のような場所だ。そこを取り囲むようにして自然の流水を引き小川が巡らされている。川のせせらぎが小さく聞こえる。まだ肌寒い冬とは言え、もう春の訪れはすぐそこなのだ。凍ったことはない、と不在にしていた一月、二月の川のようすを空条は母に言われて知っていた。
それも例年と変わりはない。不在の後に改めて眺めた庭のようすはどこも見慣れたものだった。変わりはないのだ、川も、木立も。――何もかも。
だが空条は知っていた。あの旅で自分が決定的に損なわれ、すっかり変わってしまったことを。心の中はもう二度と元には戻れないほどに深く深く傷ついていまだに血を流していることを。
自分は、変わった。自覚がある。
失われたのは魂だった。己の半身であることを自覚した、まさにその日に自分の分身は失われ、永遠に戻らない長い眠りについたのだ。
空条は庭の一角にしゃがみこんだ。そこは去年の寒さで地に落ちた、冬枯れた木の葉が積まれている。皺ぐんで丸まっている葉がほとんどだったが、紅葉の鮮やかさをまだかすかに残す葉もあった。今の時間の陰影の濃い月明かりのただ中では色の区別はつけようもないのだが。
空条は上着のポケットに手を入れるとライターを取り出した。旅の間も手放さなかった、アメリカ生まれのライターだ。銀色に光る小さな矩形が全体にとても古びて見えるのはその表面が幾重にも傷ついているからだ。鈍く、だが、鮮やかに光る輝きを空条はしばらくじっと見下ろした。
持つ手の角度を変えるとライターは、月光を反射して鋭い光を放射する。
やがて空条は右手を軽く振ると小気味の良い金属音を立てて蓋を開け、砥石部分を動かした。手馴れた動作は水が流れるような自然さで遅滞というものがまるでない。
ぼうっと音を上げたかと思えるほど青白い光が強く激しく目を射ったのは、周囲を満たす月影とあまりにも異質な光が射したからだ。
空条は木の葉の山にライターを近づけた。乾燥した日が続いたせいで紙のように乾ききっていたその山はたちまち高く燃え上がった。
空条は瞬きもせずに赤々と燃える炎を見つめていた。
今日、昼の間に庭を歩いて焚き火の支度はしてあった。火災になるのを避けるため日が高いうちに燃やしてしまいたいものを抱えしばらくここに佇んではみたのだった。だが庭に燃える火を見つけたなら母のホリィが必ずそれを見に来るだろう。一体何を燃やすのか、と。
空条はその説明を避けたかった。母にすら――いや、母だからこそ見せたくなかったし、好意の意味を問われたくはなかったのだ。
だが今ならば。
彼を見下ろす月以外、空条の行為を知る者はない。どこにもいない。
小脇に抱えた荷物の中身。ライターをしまうと空条はその風呂敷包みを膝の上で静かに開いた。
中に入っていたのは数冊の手帖だった。どれも見た目は同じだった。空条の掌にすっぽり収まるほどの大きさで紙数は多くかなり厚い。月明かりでは判別不可能ではあるが、一冊だけいかにも古びて汚れがついた手帖があった。角は擦り切れて丸くなり、手帖もあちこちが破れている。一番古く見えるそれが、実は最新の手帖だった。
空条はそれだけを取り避けて地に置いた。それから風呂敷の中身を焚き火の中心に投げ込んだ。ばさばさと音がして炎がぱっと舞い散った。一瞬だけ火勢が落ちたがすぐに元に倍した勢いで炎が高々と燃え上がる。
真っ赤に染まった空条の顔は、相変わらず端正で、そうして表情が何もなかった。
皮が焦げる匂いが漂う。紙片は次々に炎を発する。
みじろぎもしない空条の周囲をほの白い煙が包んでいる。風がまるきり吹かないために炎はまっすぐに直立し、煙はあたりに立ち込めている。
火勢が少し弱まったとき、空条は地に置いた手帖を拾い上げた。節が高く長い指が掌に載せた手帳をなぞるように動く。
――手帖は空条が折々に取ったさまざまなメモで埋められていた。彼が高校生になった時から始められたメモを取る習慣はあの旅の間も続けられ、最後の、そして最新の一冊を手に帰国したのだ。
空条にとってメモは記憶を確認するための媒体では実はなかった。手帳に書き込んだ時点でそれらは記憶に刻まれている。メモを取るのは自分が何を覚えたかではなく、その情報をいつ仕入れたかを残すためだけに行われていた。
だから他人が見ても判読できない内容がほとんどで、たとえ誰かがこれを拾って空条の思考を追おうとしても決して読み取れはしないだろう。
英語の省略記号、ラテン語の文字、それらも駆使されていたからだ。速記記号は習わなかった……自分で編み出した記号の方が便利かつ習得の手間を省けるからだ。
空条は残された手帳から目を上げた。満月を見上げて動かない。
月を――満月を二回見た。あの旅で、仲間と共に。
一度は海で、二度目は砂漠で。
あの時は傍らに友がいたのだ。自分より少しだけ背が低く、少しだけ高い声の、よく笑うようになった、友が。
空条の手が痙攣するように引きつった。
手帖を開き、最初の頁をいきなり破った。手の中で丸めると赤い炎に投げ込んだ。
白い紙片は真っ赤に染まり、あっけなく炎を発して灰になる。熱気にあおられた焦げた紙片が小さく、はかなく辺りに舞った。
内容はすべて覚えているのだ……記録を残す必要はない。あの旅のどの瞬間も鮮明に思い出せる。――忘れてしまいたいことでも、忘れることはできないのだ。
どの時も、どの時も。傍らにはいつも、友が。
空条は一枚ずつ紙片を破いた。
目の奥に文字を綴った時の状況が映像となって浮かび上がる。
























×月×日(×曜日)

新品の手帖に取り替えた。
クラス替え。




×月×日(×曜日)

同級生がやかましすぎる。




×月×日(×曜日)

手帖を同時に二冊買うのは予備が切れたら困るからだ。
誰かが見たがりでもしたら
持ち歩いているうちの一冊を見せて
「あぶりだしだ」と言えばいい。




×月×日(×曜日)

理科室で俺の手帖を炙った馬鹿がいた。言語道断。
そいつの眉毛が生え揃うまでどのくらいかかるのか。




×月×日(×曜日)

人間の眉毛は三~四ヶ月のサイクルで生え変わる。




×月×日(×曜日)

今朝、鏡を見たら俺の背後に顔が浮かんだ。青白い、男の顔だ。
振り向いたが誰もいない。
Deus ex machinaか? 気にはなる。

(朦朧とした似顔絵)




×月×日(×曜日)

男の影がどこにでも現れるようになった。
そいつとの意志の疎通が図れるかやってみた。こいつは何なのだろう?




×月×日(×曜日)

命じたことを何でも実行する。




×月×日(×曜日)

ムカつく教師が骨折した。




×月×日(×曜日)

きいきい言い出したお袋が突然黙る。
男が口を押さえたからだ。




×月×日(×曜日)

駄目だ。
制御できない。




×月×日(×曜日)

警察署に殴りこむ。
持ち物検査をされたら困る。
手帖は家に置いていく。




×月×日(×曜日)

祖父の話を鵜呑みにしていいものか。




×月×日(×曜日)

久しぶりに登校、しかしとんでもない奴が現れる。




×月×日(×曜日)

訂正。
とんでもない奴ではなく
どうしようもない奴だった。




×月×日(×曜日)

怪我させたことを謝るといきなり泣かれた。
名前を覚えた。
花京院典明と言うらしい。




×月×日(×曜日)

エジプトに向かうことになった。
飛行機の中で気持ち悪い奴が攻撃してきた。
スタンドの動きをかわされた。
これから毎日飛んでいる昆虫を捕まえることにする。




×月×日(×曜日)

仲間が増えた。




×月×日(×曜日)

不細工な可愛気のない餓鬼。
水中戦。ふたり退治。




×月×日(×曜日)

話をした。
花京院は面白い。




×月×日(×曜日)

花京院とポルナレフが鏡の世界を経験する。
だがファンタジーやメルヘンじゃない!
と花京院はまだ怒っている。
ポルナレフを殴って鼻血を出させたそうだ。
至極もっともな対応だ。
俺もあいつはときどき殴りたくてたまらない。




×月×日(×曜日)

ジジィが大ピンチだったらしい。
年を食って衰えたか。
いかさまの技だけはまだ超一流。
見習うべきだ。




×月×日(×曜日)

うざいスタンド使い。
砂に埋めた。
花京院も相撲が好きらしい。




×月×日(×曜日)

話をした。




×月×日(×曜日)

髪型が変だ。




×月×日(×曜日)

見慣れない変な髪形。




×月×日(×曜日)

あんなに変わった髪形は初めてだ。




×月×日(×曜日)

霧に覆われた町で死人と対決。
ポルナレフが紳士らしからぬ振舞いをしたことを
誰にも言わないと約束した。





×月×日(×曜日)

アブドゥルは秘密の場所で静養中。
花京院が偽装された死を悲しんでずっと泣いている。
髪が気になる。




×月×日(×曜日)

なぐさめようがない。
髪が気になる。




×月×日(×曜日)

飯がまずい。




×月×日(×曜日)

今日も変な髪形だった。




×月×日(×曜日)

花京院が帽子のことをとやかく言うので
髪をかき回しただけで泣き出された。
びっくりした。




×月×日(×曜日)

昨日は別に泣いてないとわざわざ言いに来たので
もう一度髪をぐしゃぐしゃにしたらまた泣いた。
ジジィがうるさい。
花京院が軟弱なだけで、俺は普通だ。




×月×日(×曜日)

スタンド使い、ひとり再起不能に。
下司な奴だった。
置いて行かれた気になって嫌だった。





×月×日(×曜日)

あんな髪の毛で戦われても困る。
気になって迷惑だ。




×月×日(×曜日)

分け目がどこになるのか観察中。




×月×日(×曜日)

太陽。ボコった。
熱かった。
(汗が滲んだのかこの日を境に手帖に皺が)




×月×日(×曜日)

花京院がひとりで戦ったらしい。
俺以外誰も信じていない状況を
一気にひっくり返して敵を倒した。




×月×日(×曜日)

「お仕置き」の内容を聞かされた。
あいつの作る飯は今後一切食わないことに決める。




×月×日(×曜日)

変な髪形。理解不能。
ピアスは赤い。




×月×日(×曜日)

アブドゥル復帰。
元気そうだ。
花京院には話しておいたが
ポルナレフにはむくれられた。




×月×日(×曜日)

今日、花京院が手帖を拾い、
中を見たいと言うので見せたところ
これは自分のことだろうと真っ赤になって怒り狂った。
髪型について書いていたのが気に入らなかったらしい。
いつまでもやかましいので
部屋を変えてひとりで貰って寝た。
気持ち良かった。




×月×日(×曜日)

赤い目で非難される。
変なものは変だ。

(普段より文字が小さい)




×月×日(×曜日)

手を怪我する。
金属にも化けるのはいいとして
カミソリはないだろう。
花京院が首を怪我した。
女を倒した。ぐちゃぐちゃな顔になった。




×月×日(×曜日)

イギー合流。
盲目のスタンド使い……嫌な話を聞かされた。
まあ何があろうとあの馬鹿は倒すだけだが。
花京院が入院する。




×月×日(×曜日)

見舞いに行った。
やっぱりおかしい。どうやったってあれはない。
変な髪形。
口がでかい。




×月×日(×曜日)

髪型の話になり
ポルナレフがスプレー二缶を使って
髪を逆立てていることを自慢する。
実に反エコロジーだ。
(ポルナレフの似顔絵)




×月×日(×曜日)

兄弟のスタンド使い殲滅
出てくるな、ボケが。
どっかに埋まってろ。
タバコ五本ではインパクトがない、と言われたので
六本に挑戦した。
できた。




×月×日(×曜日)

スタンド使いと名乗るな、ダボが!!!!!
男の風上にも置けない野郎だ。
砂に埋める。
ポルナレフが本気を出すのを初めて見た。




×月×日(×曜日)

花京院がいない。
あの変な髪が懐かしい。




×月×日(×曜日)

病院に電話しようにも
そのチャンスがなかなかない。




×月×日(×曜日)

前世紀末からこの世紀にかけて物質面においては爆発的な発展を経験した西洋文明は、合理性や理性を重んじる思想と密接に結びつきながら、個性や主体性をもった人間存在そのもの(実存)を疎外し抑圧し始めた。実存主義とはこのような人間存在の疎外・抑圧に対する異議申し立てをおこなった一連の思想を言い、いずれも西洋文明の合理性に対して非合理性を、抽象性・客観性に対して具体的な個人の内面(主観性)を重視する傾向がある。世紀末の絶望と不安といった感情を如実に表現する思潮だ。
キルケゴール、ヤスパースなどの、私が私である理由を知らずに生まれたことを前提に、不可知ではあるが己と密接な関係にある主体的自己を知ることで普遍的真理に至る道が

(乱雑な取り消し線)

俺は今、自分がわからない。




×月×日(×曜日)

ジジィふたりが磁石で大変な目にあったらしい。
俺とポルナレフもガキに戻された。
俺が喧嘩好きなのは生まれつきだ。




×月×日(×曜日)

会いたい。
(上記文字に複数の取り消し線)




×月×日(×曜日)

気色悪いスタンド使い。
花京院の魂を賭けたのは自分でも意外だった。
大事なものと思った瞬間、ホリィと花京院が頭に浮かんだ。
けど、俺は

(以下乱雑な殴り書きの無意味な線)




×月×日(×曜日)

インド哲学でいう輪廻とは生物の魂が消滅せずに生まれ変わり死に変わりして流れていく相のことを指し、サンサーラとはニーチェの唱える永劫回帰にも似たある種の劫罰。輪廻する実体が何かを問うより輪廻からの脱却を目指すインドでは涅槃=永遠の安息に入るためのメソッドが多数用意されている。釈尊はこのサンサーラから脱却した人類史上初めての人間として崇敬を集めている。輪廻する主体は「私」である。「私」を輪廻=生命=苦しみから解き放つためのあらゆる技法が彼の地には用意され、幾多の僧侶、修行者が涅槃を目指して努力している。「私」が問

(取り消し線)

俺は花京院に何度も会っているということか?
地上からの借り物がなくならない限り真理への到達は出来ないと言った聖者がいる。呼吸を止めても生きられるのならその時初めて地上の鎖から解き放たれて本当の意味で「自由」になると。修行で息も吸わず、鼓動も打たず、飯も食わずに生きられるようになったとして、その時その存在は――その「私」は人間なのか? 地上に生きる身であるのなら必ず必要なすべての要素を自ら捨ててそれでも「生きる」ことは可能なのか?

花京院のことばかり考えている。















(以下数頁、白紙が続く)




(日付なし)
さくらんぼが好きらしい。
ゲームが好きで、得意らしい。
戻ったら聞いてみよう。
おまえは輪廻を信じるだろうか。
不在の間、俺はずっと考えていた。






また会えるよな。花京院









(以下数頁、白紙が続く)









×月×日(×曜日)

花京院が戻った。
数時間後に、死んだ。




(白紙)




(白紙)




(最後まで 白紙)









最後のページをむしり取るとひときわ力をこめてから空条は炎に手帖――かつて手帖だったものの残骸を投げ込んだ。
それから右手を見下ろした。
握手の感触。
復帰した花京院を迎えて差し出して、そうして握り返された右の掌。花京院の掌は薄く、指は細く、力はまだ弱かった。だがその時交わされた情報は誰よりも深く熱いものだったのだ。
空条は立ち上がった。
花京院の意志がまだ胸に残る。
――輪廻を、と問いかけた時、花京院は微笑んだのだ。そして空条にこう伝えた。
生まれ変わってもまた君に会いたいよ。
次に会えるのはいつだろう?
空条はそれに答えた。胸の奥に光る青い光で。
この人生でずっと一緒にいればいい。
そして緑の光が愉快そうに輝きを増したのだ。明るく、強く。
それがいい。そうしよう。よろしく頼むよ、ぼくの初めての『友達』、承太郎。
ずっと一緒に。
その「会話」を最後に――花京院は亡くなった。
空条は火が消えるまで炎を黙って凝視していた。
胸にあふれる思いはこれからも誰にも何も言えないだろう。花京院がどんな人で、何を愛し、どのような思いで生きていたのか、知る者はなく、問う者もない。
けれども空条は覚えている。知っている。理解している。人生で初めてできた友人がどのような男だったかを。
あれほどに、獰猛なまでに燃えていた赤い炎が静かになり、くすぶる煙が色を濃くした。
完全に火が落ちたのを確認すると空条は自分のスタンドを呼び出して両の掌に水を掬んで幾度も幾度も焚き火にかけた。
炎を消すことは可能なのだ。水をかける。酸素を断つ。燃料がなくなれば炎は自然に消えていく。だがこの胸に燃える情熱は決して消すことはできないのだ。
――花京院、花京院。
空条は夜空に向かって呼びかけた。
自分は心弱い男で、おまえの死に様を文字にすることさえできずにいる。最期の瞬間、笑っていたおまえの顔が今でも目の奥に焼きついたままなのに。
だが俺はメモを取るのをやめないだろう。これからも俺は戦い続ける。決して、二度と、絶対に、誰の事も失ったりしないために、あらゆる要素を計算に入れ、すべての情報を集めてから、死にものぐるいで敵を叩く。俺は絶対に負けられない。
部屋には既に新しい手帳が用意してある。
空条は歩き出した。
後悔も悲しみもなく、ただ覚悟だけを深めながら。
――たったの一年、たったの半年、たったの一ヶ月前であったとしても、手帖に残された自分の姿が何と幼く見えることか。
空条は高校生であることを捨て、十八歳であることを捨てる決意をしていた。旅の果てに目にしたものの悲惨な現実を知る身には、そのような立場も位置も一顧だにできなくなっている。誰かに守られ、庇護に頼ってぬくぬくと生きてはいられない。
自分の人生が既に自分ひとりのものではなくなっていることを、空条ははっきりと自覚していた。友の死を、仲間の無念を胸に秘め、邪悪なる吸血鬼の残党を狩る使命が天から与えられてしまったのだ。
行く手に何が待つかを知らない。血濡れられた茨の道であることだけはわかっている。
もう戻れない道を自分は往く――力尽きるその日まで。
友に再会できるその日まで。
自分は、歩く。……歩き続ける。
そのことだけを決意して、空条は静かに歩き続けた。
夜空には崇高ですらあるような大きな月が輝いている。
庭を満たした煙と匂いはやがてしだいに薄れていった。

 


 

 

フェチ3部作の記念すべきラストです。

なんだか、原作の「その後」みたいな感じですね。

最後の決戦の前とか、実際こんなやりとりしてそう!

 

たまにはくっついてない承花もいいですよね。

「輪廻を信じるか?」だなんて高校生がする会話じゃないけど、あの二人なら大いに有り得るw

 

中庭さまの小説の承と花って、「好きだ」とか「愛してる」とか言葉にしなくとも、しっかりお互いの気持ちを分かり合ってるんだなぁってことがすごい伝わってきます。

これも中庭様の素晴らしい文才の賜物ですね^^

 

3作いただきましたが、コレが一番大好きです。

居なくなって初めて分かるこの思い。

変な前髪呼ばわりしていたけど、やっぱり承太郎にとって花京院はかけがえのない仲間だったんですよね!

この切なさ・・・たまらん!

原作でもコレくらいしてくれればよかったのに!!><

だって承太郎さん、典明の死にやけにあっさりしすぎというかwwww

 

(メモ内容の承りが混乱してる部分を少しも解読できない自分が情けないwwww)

もっと本を読もう!

 

中庭さま、毎度毎度ありがとうございます!